不動産鑑定評価基準


第2節賃料を求める鑑定評価の手法
不動産の賃料を求める鑑定評価の手法は、新規賃料にあっては積算法、賃貸事例比較
法、収益分析法等があり、継続賃料にあっては差額配分法、利回り法、スライド法、賃
貸事例比較法等がある。

T 賃料を求める場合の一般的留意事項
賃料の鑑定評価は、対象不動産について、賃料の算定の期間に対応して、実質賃料
を求めることを原則とし、賃料の算定の期間及び支払いの時期に係る条件並びに権利
金、敷金、保証金等の一時金の授受に関する条件が付されて支払賃料を求めることを
依頼された場合には、実質賃料とともに、その一部である支払賃料を求めることがで
きるものとする。

1.実質賃料と支払賃料
実質賃料とは、賃料の種類の如何を問わず貸主に支払われる賃料の算定の期間に
対応する適正なすべての経済的対価をいい、純賃料及び不動産の賃貸借等を継続す
るために通常必要とされる諸経費等(以下「必要諸経費等」という)から成り立。
つものである。

支払賃料とは、各支払時期に支払われる賃料をいい、契約に当たって、権利金、
敷金、保証金等の一時金が授受される場合においては、当該一時金の運用益及び償
却額と併せて実質賃料を構成するものである。
なお、慣行上、建物及びその敷地の一部の賃貸借に当たって、水道光熱費、清掃
・衛生費、冷暖房費等がいわゆる付加使用料、共益費等の名目で支払われる場合も
あるが、これらのうちには実質的に賃料に相当する部分が含まれている場合がある
ことに留意する必要がある。

2.支払賃料の求め方
契約に当たって一時金が授受される場合における支払賃料は、実質賃料から、当
該一時金について賃料の前払的性格を有する一時金の運用益及び償却額並びに預り
金的性格を有する一時金の運用益を控除して求めるものとする。
なお、賃料の前払的性格を有する一時金の運用益及び償却額については、対象不
動産の賃貸借等の持続する期間の効用の変化等に着目し、実態に応じて適切に求め
るものとする。
運用利回りは、賃貸借等の契約に当たって授受される一時金の性格、賃貸借等の
契約内容並びに対象不動産の種類及び性格等の相違に応じて、当該不動産の期待利
回り、不動産の取引利回り、長期預金の金利、国債及び公社債利回り、金融機関の
貸出金利等を比較考量して決定するものとする。

3.賃料の算定の期間
鑑定評価によって求める賃料の算定の期間は、原則として、宅地並びに建物及び
その敷地の賃料にあっては1月を単位とし、その他の土地にあっては1年を単位と
するものとする。

U 新規賃料を求める鑑定評価の手法
1.積算法
(1)意義
積算法は、対象不動産について、価格時点における基礎価格を求め、これに期
待利回りを乗じて得た額に必要諸経費等を加算して対象不動産の試算賃料を求め
る手法である(この手法による試算賃料を積算賃料という。。)
積算法は、対象不動産の基礎価格、期待利回り及び必要諸経費等の把握を的確
に行い得る場合に有効である。
(2)適用方法
@ 基礎価格
基礎価格とは、積算賃料を求めるための基礎となる価格をいい、原価法及び
取引事例比較法により求めるものとする。
A 期待利回り
期待利回りとは、賃貸借等に供する不動産を取得するために要した資本に相
当する額に対して期待される純収益のその資本相当額に対する割合をいう。
期待利回りを求める方法については、収益還元法における還元利回りを求め
る方法に準ずるものとする。この場合において、賃料の有する特性に留意すべ
きである。
B 必要諸経費等
不動産の賃貸借等に当たってその賃料に含まれる必要諸経費等としては、次
のものがあげられる。
ア減価償却費
イ維持管理費(維持費、管理費、修繕費等)
ウ公租公課(固定資産税、都市計画税等)
エ損害保険料(火災、機械、ボイラー等の各種保険)
オ貸倒れ準備費
カ空室等による損失相当額

2.賃貸事例比較法
(1)意義
賃貸事例比較法は、まず多数の新規の賃貸借等の事例を収集して適切な事例の
選択を行い、これらに係る実際実質賃料(実際に支払われている不動産に係るす
べての経済的対価をいう)に必要に応じて事情補正及び時点修正を行いかつ
地域要因の比較及び個別的要因の比較を行って求められた賃料を比較考量し、こ
れによって対象不動産の試算賃料を求める手法である(この手法による試算賃料
を比準賃料という。)
賃貸事例比較法は、近隣地域又は同一需給圏内の類似地域等において対象不動
産と類似の不動産の賃貸借等が行われている場合又は同一需給圏内の代替競争不
動産の賃貸借等が行われている場合に有効である。

(2)適用方法
@ 事例の収集及び選択
賃貸借等の事例の収集及び選択については、取引事例比較法における事例の
収集及び選択に準ずるものとする。この場合において、賃貸借等の契約の内容
について類似性を有するものを選択すべきことに留意しなければならない。
A 事情補正及び時点修正並びに地域要因の比較及び個別的要因の比較
事情補正及び時点修正並びに地域要因の比較及び個別的要因の比較について
は、取引事例比較法の場合に準ずるものとする。

3.収益分析法
(1)意義
収益分析法は、一般の企業経営に基づく総収益を分析して対象不動産が一定期
間に生み出すであろうと期待される純収益(減価償却後のものとし、これを収益
純賃料という)を求め、これに必要諸経費等を加算して対象不動産の試算賃料。
を求める手法である(この手法による試算賃料を収益賃料という。)
収益分析法は、企業の用に供されている不動産に帰属する純収益を適切に求め
得る場合に有効である。
(2)適用方法
@ 収益純賃料の算定
収益純賃料の算定については、収益還元法における純収益の算定に準ずるも
のとする。この場合において、賃料の有する特性に留意しなければならない。
A 収益賃料を求める手法
収益賃料は、収益純賃料の額に賃貸借等に当たって賃料に含まれる必要諸経
費等を加算することによって求めるものとする。
なお、一般企業経営に基づく総収益を分析して収益純賃料及び必要諸経費等
を含む賃料相当額を収益賃料として直接求めることができる場合もある。

V 継続賃料を求める鑑定評価の手法
1.差額配分法
(1)意義
差額配分法は、対象不動産の経済価値に即応した適正な実質賃料又は支払賃料
と実際実質賃料又は実際支払賃料との間に発生している差額について、契約の内
容、契約締結の経緯等を総合的に勘案して、当該差額のうち貸主に帰属する部分
を適切に判定して得た額を実際実質賃料又は実際支払賃料に加減して試算賃料を
求める手法である。
(2)適用方法
@ 対象不動産の経済価値に即応した適正な実質賃料は、価格時点において想定
される正常賃料であり、積算法、賃貸事例比較法等により求めるものとする。
対象不動産の経済価値に即応した適正な支払賃料は、契約に当たって一時金
が授受されている場合については、実質賃料から権利金、敷金、保証金等の一
時金の運用益及び償却額を控除することにより求めるものとする。
A 貸主に帰属する部分については、一般的要因の分析及び地域要因の分析によ
り差額発生の要因を広域的に分析し、さらに対象不動産について次に掲げる契
約の事項等に関する分析を行うことにより適切に判断するものとする。
ア契約上の経過期間と残存期間
イ契約締結及びその後現在に至るまでの経緯
ウ貸主又は借主の近隣地域の発展に対する寄与度

2.利回り法
(1)意義
利回り法は、基礎価格に継続賃料利回りを乗じて得た額に必要諸経費等を加算
して試算賃料を求める手法である。
(2)適用方法
@ 基礎価格及び必要諸経費等の求め方については積算法に準ずるものとする
A 継続賃料利回りは、現行賃料を定めた時点における基礎価格に対する純賃料
の割合を標準とし、契約締結時及びその後の各賃料改定時の利回り、基礎価格
の変動の程度、近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等における対象不動
産と類似の不動産の賃貸借等の事例又は同一需給圏内の代替競争不動産の賃貸
借等の事例における利回りを総合的に比較考量して求めるものとする。

3.スライド法
(1)意義
スライド法は、現行賃料を定めた時点における純賃料に変動率を乗じて得た額
に価格時点における必要諸経費等を加算して試算賃料を求める手法である。
なお、現行賃料を定めた時点における実際実質賃料又は実際支払賃料に即応す
る適切な変動率が求められる場合には、当該変動率を乗じて得た額を試算賃料と
して直接求めることができるものとする。
(2)適用方法
@ 変動率は、現行賃料を定めた時点から価格時点までの間における経済情勢等
の変化に即応する変動分を表すものであり、土地及び建物価格の変動、物価変
動、所得水準の変動等を示す各種指数等を総合的に勘案して求めるものとする。
A 必要諸経費等の求め方は、積算法に準ずるものとする。

4.賃貸事例比較法
賃貸事例比較法は、新規賃料に係る賃貸事例比較法に準じて試算賃料を求める手
法である。

総論
第1章不動産の鑑定評価に関する基本的考察

第2章不動産の種別及び類型

第3章不動産の価格を形成する要因

第4章不動産の価格に関する諸原則

第5章鑑定評価の基本的事項

第6章地域分析及び個別分析

第7章鑑定評価の方式
鑑定評価の方式
価格を求める鑑定評価の手法1
価格を求める鑑定評価の手法2
賃料を求める鑑定評価の手法

第8章鑑定評価の手順

第9章鑑定評価報告書


各論
第1章価格に関する鑑定評価
土地
建物及びその敷地
建物

第2章賃料に関する鑑定評価
宅地
建物及びその敷地


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