不動産鑑定評価基準


第1節価格を求める鑑定評価の手法
不動産の価格を求める鑑定評価の基本的な手法は、原価法、取引事例比較法及び収益
還元法に大別され、このほか三手法の考え方を活用した開発法等の手法がある。

T 試算価格を求める場合の一般的留意事項
1.一般的要因と鑑定評価の各手法の適用との関連
価格形成要因のうち一般的要因は、不動産の価格形成全般に影響を与えるもので
あり鑑定評価手法の適用における各手順において常に考慮されるべきものであり
価格判定の妥当性を検討するために活用しなければならない。

2.事例の収集及び選択
鑑定評価の各手法の適用に当たって必要とされる事例には、原価法の適用に当た
って必要な建設事例、取引事例比較法の適用に当たって必要な取引事例及び収益還
元法の適用に当たって必要な収益事例(以下「取引事例等」という)がある。こ。
れらの取引事例等は、鑑定評価の各手法に即応し、適切にして合理的な計画に基づ
き、豊富に秩序正しく収集し、選択すべきであり、投機的取引であると認められる
事例等適正さを欠くものであってはならない。

取引事例等は、次の要件の全部を備えるもののうちから選択するものとする。
(1)次の不動産に係るものであること
@ 近隣地域又は同一需給圏内の類似地域若しくは必要やむを得ない場合には近
隣地域の周辺の地域(以下「同一需給圏内の類似地域等」という)に存する不動産
A 対象不動産の最有効使用が標準的使用と異なる場合等における同一需給圏内
に存し対象不動産と代替競争等の関係が成立していると認められる不動産以
下「同一需給圏内の代替競争不動産」という。

(2)取引事例等に係る取引等の事情が正常なものと認められるものであること又は
正常なものに補正することができるものであること。

(3)時点修正をすることが可能なものであること。

(4)地域要因の比較及び個別的要因の比較が可能なものであること。

3.事情補正
取引事例等に係る取引等が特殊な事情を含み、これが当該取引事例等に係る価格
等に影響を及ぼしているときは適切に補正しなければならない。
(1)現実に成立した取引事例等には、不動産市場の特性、取引等における当事者双
方の能力の多様性と特別の動機により売り急ぎ、買い進み等の特殊な事情が存在
する場合もあるので、取引事例等がどのような条件の下で成立したものであるか
を資料の分析に当たり十分に調査しなければならない。
(2)特殊な事情とは、正常価格を求める場合には、正常価格の前提となる現実の社
会経済情勢の下で合理的と考えられる諸条件を欠くに至らしめる事情のことであ
る。

4.時点修正
取引事例等に係る取引等の時点が価格時点と異なることにより、その間に価格水
準に変動があると認められる場合には、当該取引事例等の価格等を価格時点の価格
等に修正しなければならない。

5.地域要因の比較及び個別的要因の比較
取引事例等の価格等は、その不動産の存する用途的地域に係る地域要因及び当該
不動産の個別的要因を反映しているものであるから、取引事例等に係る不動産が同
一需給圏内の類似地域等に存するもの又は同一需給圏内の代替競争不動産である場
合においては、近隣地域と当該事例に係る不動産の存する地域との地域要因の比較
及び対象不動産と当該事例に係る不動産との個別的要因の比較を、取引事例等に係
る不動産が近隣地域に存するものである場合においては、対象不動産と当該事例に
係る不動産の個別的要因の比較をそれぞれ行う必要がある。

U 原価法
1.意義
原価法は、価格時点における対象不動産の再調達原価を求め、この再調達原価に
ついて減価修正を行って対象不動産の試算価格を求める手法である(この手法によ
る試算価格を積算価格という。)
原価法は、対象不動産が建物又は建物及びその敷地である場合において、再調達
原価の把握及び減価修正を適切に行うことができるときに有効であり、対象不動産
が土地のみである場合においても、再調達原価を適切に求めることができるときは
この手法を適用することができる。
この場合において、対象不動産が現に存在するものでないときは、価格時点にお
ける再調達原価を適切に求めることができる場合に限り適用することができるもの
とする。

2.適用方法
(1)再調達原価の意義
再調達原価とは、対象不動産を価格時点において再調達することを想定した場
合において必要とされる適正な原価の総額をいう。
なお、建設資材、工法等の変遷により、対象不動産の再調達原価を求めること
が困難な場合には、対象不動産と同等の有用性を持つものに置き換えて求めた原
価(置換原価)を再調達原価とみなすものとする。

(2)再調達原価を求める方法
再調達原価は、建設請負により、請負者が発注者に対して直ちに使用可能な状
態で引き渡す通常の場合を想定し、発注者が請負者に対して支払う標準的な建設
費に発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を加算して求めるものとする。
なお、置換原価は、対象不動産と同等の有用性を持つ不動産を新たに調達する
ことを想定した場合に必要とされる原価の総額であり、発注者が請負者に対して
支払う標準的な建設費に発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を加算して求め
る。
@ 土地の再調達原価は、その素材となる土地の標準的な取得原価に当該土地の
標準的な造成費と発注者が直接負担すべき通常の付帯費用とを加算して求める
ものとする。
なお、土地についての原価法の適用において、宅地造成直後の対象地の地域
要因と価格時点における対象地の地域要因とを比較し、公共施設、利便施設等
の整備及び住宅等の建設等により、社会的、経済的環境の変化が価格水準に影
響を与えていると認められる場合には、地域要因の変化の程度に応じた増加額
を熟成度として加算することができる。

A 建物及びその敷地の再調達原価は、まず、土地の再調達原価(再調達原価が
把握できない既成市街地における土地にあっては取引事例比較法及び収益還元
法によって求めた更地の価格)又は借地権の価格を求め、この価格に建物の再
調達原価を加算して求めるものとする。

B 再調達原価を求める方法には、直接法及び間接法があるが、収集した建設事
例等の資料としての信頼度に応じていずれかを適用するものとし、また、必要
に応じて併用するものとする。

ア直接法は、対象不動産について直接的に再調達原価を求める方法である。
直接法は、対象不動産について、使用資材の種別、品等及び数量並びに所
要労働の種別、時間等を調査し、対象不動産の存する地域の価格時点におけ
る単価を基礎とした直接工事費を積算し、これに間接工事費及び請負者の適
正な利益を含む一般管理費等を加えて標準的な建設費を求め、さらに発注者
が直接負担すべき通常の付帯費用を加算して再調達原価を求めるものとす
る。
また、対象不動産の素材となった土地(素地)の価格並びに実際の造成又
は建設に要した直接工事費、間接工事費、請負者の適正な利益を含む一般管
理費等及び発注者が直接負担した付帯費用の額並びにこれらの明細(種別、
品等、数量、時間、単価等)が判明している場合には、これらの明細を分析
して適切に補正し、かつ、必要に応じて時点修正を行って再調達原価を求め
ることができる。

イ間接法は、近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等に存する対象不動
産と類似の不動産又は同一需給圏内の代替競争不動産から間接的に対象不動
産の再調達原価を求める方法である。
間接法は、当該類似の不動産等について、素地の価格やその実際の造成又
は建設に要した直接工事費、間接工事費、請負者の適正な利益を含む一般管
理費等及び発注者が直接負担した付帯費用の額並びにこれらの明細(種別、
品等、数量、時間、単価等)を明確に把握できる場合に、これらの明細を分
析して適切に補正し、必要に応じて時点修正を行い、かつ、地域要因の比較
及び個別的要因の比較を行って、対象不動産の再調達原価を求めるものとす
る。

3.減価修正
減価修正の目的は、減価の要因に基づき発生した減価額を対象不動産の再調達原
価から控除して価格時点における対象不動産の適正な積算価格を求めることであ
る。
減価修正を行うに当たっては、減価の要因に着目して対象不動産を部分的かつ総
合的に分析検討し、減価額を求めなければならない。

(1)減価の要因
減価の要因は、物理的要因、機能的要因及び経済的要因に分けられる。
これらの要因は、それぞれ独立しているものではなく、相互に関連し、影響を
与え合いながら作用していることに留意しなければならない。
@ 物理的要因
物理的要因としては、不動産を使用することによって生ずる摩滅及び破損、
時の経過又は自然的作用によって生ずる老朽化並びに偶発的な損傷があげられ
る。
A 機能的要因
機能的要因としては、不動産の機能的陳腐化、すなわち、建物と敷地との不
適応、設計の不良、型式の旧式化、設備の不足及びその能率の低下等があげら
れる。
B 経済的要因
経済的要因としては、不動産の経済的不適応、すなわち、近隣地域の衰退、
不動産とその付近の環境との不適合、不動産と代替、競争等の関係にある不動
産又は付近の不動産との比較における市場性の減退等があげられる。

(2)減価修正の方法
減価額を求めるには、次の二つの方法があり、原則としてこれらを併用するも
のとする。
@ 耐用年数に基づく方法
耐用年数に基づく方法には、定額法、定率法等があるが、これらのうちいず
れの方法を用いるかは、対象不動産の実情に即して決定すべきである。
この方法を用いる場合には、経過年数よりも経済的残存耐用年数に重点をお
いて判断すべきである。
なお、対象不動産が二以上の分別可能な組成部分により構成されていて、そ
れぞれの耐用年数又は経済的残存耐用年数が異なる場合に、これらをいかに判
断して用いるか、また、耐用年数満了時における残材価額をいかにみるかにつ
いても、対象不動産の実情に即して決定すべきである。

A 観察減価法
観察減価法は、対象不動産について、設計、設備等の機能性、維持管理の状
態、補修の状況、付近の環境との適合の状態等各減価の要因の実態を調査する
ことにより、減価額を直接求める方法である。

V 取引事例比較法
1.意義
取引事例比較法は、まず多数の取引事例を収集して適切な事例の選択を行い、こ
れらに係る取引価格に必要に応じて事情補正及び時点修正を行い、かつ、地域要因
の比較及び個別的要因の比較を行って求められた価格を比較考量し、これによって
対象不動産の試算価格を求める手法である(この手法による試算価格を比準価格と
いう。)
取引事例比較法は、近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等において対象不
動産と類似の不動産の取引が行われている場合又は同一需給圏内の代替競争不動産
の取引が行われている場合に有効である。

2.適用方法
(1)事例の収集及び選択
取引事例比較法は、市場において発生した取引事例を価格判定の基礎とするも
のであるので、多数の取引事例を収集することが必要である。
取引事例は、原則として近隣地域又は同一需給圏内の類似地域に存する不動産
に係るもののうちから選択するものとし、必要やむを得ない場合には近隣地域の
周辺の地域に存する不動産に係るもののうちから、対象不動産の最有効使用が標
準的使用と異なる場合等には、同一需給圏内の代替競争不動産に係るもののうち
から選択するものとするほか、次の要件の全部を備えなければならない。
@ 取引事情が正常なものと認められるものであること又は正常なものに補正す
ることができるものであること。
A 時点修正をすることが可能なものであること。
B 地域要因の比較及び個別的要因の比較が可能なものであること。

(2)事情補正及び時点修正
取引事例が特殊な事情を含み、これが当該事例に係る取引価格に影響している
と認められるときは、適切な補正を行い、取引事例に係る取引の時点が価格時点
と異なることにより、その間に価格水準の変動があると認められるときは、当該
事例の価格を価格時点の価格に修正しなければならない。
時点修正に当たっては、事例に係る不動産の存する用途的地域又は当該地域と
相似の価格変動過程を経たと認められる類似の地域における土地又は建物の価格
の変動率を求め、これにより取引価格を修正すべきである。

(3)地域要因の比較及び個別的要因の比較
取引価格は、取引事例に係る不動産の存する用途的地域の地域要因及び当該不
動産の個別的要因を反映しているものであるから、取引事例に係る不動産が同一
需給圏内の類似地域等に存するもの又は同一需給圏内の代替競争不動産である場
合においては、近隣地域と当該事例に係る不動産の存する地域との地域要因の比
較及び対象不動産と当該事例に係る不動産との個別的要因の比較を、取引事例に
係る不動産が近隣地域に存するものである場合においては、対象不動産と当該事
例に係る不動産との個別的要因の比較をそれぞれ行うものとする。
また、このほか地域要因及び個別的要因の比較については、それぞれの地域に
おける個別的要因が標準的な土地を設定して行う方法がある。

(4)配分法
取引事例が対象不動産と同類型の不動産の部分を内包して複合的に構成されて
いる異類型の不動産に係る場合においては、当該取引事例の取引価格から対象不
動産と同類型の不動産以外の部分の価格が取引価格等により判明しているとき
は、その価格を控除し、又は当該取引事例について各構成部分の価格の割合が取
引価格、新規投資等により判明しているときは、当該事例の取引価格に対象不動
産と同類型の不動産の部分に係る構成割合を乗じて、対象不動産の類型に係る事
例資料を求めるものとする(この方法を配分法という。

総論
第1章不動産の鑑定評価に関する基本的考察

第2章不動産の種別及び類型

第3章不動産の価格を形成する要因

第4章不動産の価格に関する諸原則

第5章鑑定評価の基本的事項

第6章地域分析及び個別分析

第7章鑑定評価の方式
鑑定評価の方式
価格を求める鑑定評価の手法1
価格を求める鑑定評価の手法2
賃料を求める鑑定評価の手法

第8章鑑定評価の手順

第9章鑑定評価報告書


各論
第1章価格に関する鑑定評価
土地
建物及びその敷地
建物

第2章賃料に関する鑑定評価
宅地
建物及びその敷地


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