不動産鑑定評価基準


第6章地域分析及び個別分析
対象不動産の地域分析及び個別分析を行うに当たっては、まず、それらの基礎となる一
般的要因がどのような具体的な影響力を持っているかを的確に把握しておくことが必要で
ある。

第1節地域分析
T 地域分析の意義
地域分析とは、その対象不動産がどのような地域に存するか、その地域はどのよう
な特性を有するか、また、対象不動産に係る市場はどのような特性を有するか、及び
それらの特性はその地域内の不動産の利用形態と価格形成について全般的にどのよう
な影響力を持っているかを分析し、判定することをいう。

U 地域分析の適用
1.地域及びその特性
地域分析に当たって特に重要な地域は用途的観点から区分される地域以下「用
途的地域」という、すなわち近隣地域及びその類似地域と、近隣地域及びこれ
と相関関係にある類似地域を含むより広域的な地域、すなわち同一需給圏である。

また、近隣地域の特性は、通常、その地域に属する不動産の一般的な標準的使用
に具体的に現れるが、この標準的使用は、利用形態からみた地域相互間の相対的位
置関係及び価格形成を明らかにする手掛りとなるとともに、その地域に属する不動
産のそれぞれについての最有効使用を判定する有力な標準となるものである。
なお、不動産の属する地域は固定的なものではなく、地域の特性を形成する地域
要因も常に変動するものであることから、地域分析に当たっては、対象不動産に係
る市場の特性の把握の結果を踏まえて地域要因及び標準的使用の現状と将来の動向
とをあわせて分析し、標準的使用を判定しなければならない。

(1)用途的地域
@ 近隣地域
近隣地域とは、対象不動産の属する用途的地域であって、より大きな規模と
内容とを持つ地域である都市あるいは農村等の内部にあって居住商業活動
工業生産活動等人の生活と活動とに関して、ある特定の用途に供されることを
中心として地域的にまとまりを示している地域をいい、対象不動産の価格の形
成に関して直接に影響を与えるような特性を持つものである。
近隣地域は、その地域の特性を形成する地域要因の推移、動向の如何によっ
て、変化していくものである。

A 類似地域
類似地域とは、近隣地域の地域の特性と類似する特性を有する地域であり、
その地域に属する不動産は、特定の用途に供されることを中心として地域的に
まとまりを持つものである。この地域のまとまりは、近隣地域の特性との類似
性を前提として判定されるものである。

(2)同一需給圏
同一需給圏とは、一般に対象不動産と代替関係が成立して、その価格の形成に
ついて相互に影響を及ぼすような関係にある他の不動産の存する圏域をいう。そ
れは、近隣地域を含んでより広域的であり、近隣地域と相関関係にある類似地域
等の存する範囲を規定するものである。
一般に、近隣地域と同一需給圏内に存する類似地域とは、隣接すると否とにか
かわらず、その地域要因の類似性に基づいて、それぞれの地域の構成分子である
不動産相互の間に代替、競争等の関係が成立し、その結果、両地域は相互に影響
を及ぼすものである。
また、近隣地域の外かつ同一需給圏内の類似地域の外に存する不動産であって
も、同一需給圏内に存し対象不動産とその用途、規模、品等等の類似性に基づい
て、これら相互の間に代替、競争等の関係が成立する場合がある。
同一需給圏は、不動産の種類、性格及び規模に応じた需要者の選好性によって
その地域的範囲を異にするものであるから、その種類、性格及び規模に応じて需
要者の選好性を的確に把握した上で適切に判定する必要がある。

同一需給圏の判定に当たって特に留意すべき基本的な事項は、次のとおりであ
る。
@ 宅地
ア住宅地
同一需給圏は、一般に都心への通勤可能な地域の範囲に一致する傾向があ
る。ただし、地縁的選好性により地域的範囲が狭められる傾向がある。
なお、地域の名声、品位等による選好性の強さが同一需給圏の地域的範囲
に特に影響を与える場合があることに留意すべきである。

イ商業地
同一需給圏は、高度商業地については、一般に広域的な商業背後地を基礎
に成り立つ商業収益に関して代替性の及ぶ地域の範囲に一致する傾向があ
り、したがって、その範囲は高度商業地の性格に応じて広域的に形成される
傾向がある。
また、普通商業地については、一般に狭い商業背後地を基礎に成り立つ商
業収益に関して代替性の及ぶ地域の範囲に一致する傾向がある。ただし、地
縁的選好性により地域的範囲が狭められる傾向がある。

ウ工業地
同一需給圏は、港湾、高速交通網等の利便性を指向する産業基盤指向型工
業地等の大工場地については、一般に原材料、製品等の大規模な移動を可能
にする高度の輸送機関に関して代替性を有する地域の範囲に一致する傾向が
あり、したがって、その地域的範囲は、全国的な規模となる傾向がある。
また、製品の消費地への距離、消費規模等の市場接近性を指向する消費地
指向型工業地等の中小工場地については、一般に製品の生産及び販売に関す
る費用の経済性に関して代替性を有する地域の範囲に一致する傾向がある。

エ移行地
同一需給圏は、一般に当該土地が移行すると見込まれる土地の種別の同一
需給圏と一致する傾向がある。ただし、熟成度の低い場合には、移行前の土
地の種別の同一需給圏と同一のものとなる傾向がある。

A 農地
同一需給圏は、一般に当該農地を中心とする通常の農業生産活動の可能な地
域の範囲内に立地する農業経営主体を中心とするそれぞれの農業生産活動の可
能な地域の範囲に一致する傾向がある。

B 林地
同一需給圏は、一般に当該林地を中心とする通常の林業生産活動の可能な地
域の範囲内に立地する林業経営主体を中心とするそれぞれの林業生産活動の可
能な地域の範囲に一致する傾向がある。

C 見込地
同一需給圏は、一般に当該土地が転換すると見込まれる土地の種別の同一需
給圏と一致する傾向がある。ただし、熟成度の低い場合には、転換前の土地の
種別の同一需給圏と同一のものとなる傾向がある。

D 建物及びその敷地
同一需給圏は、一般に当該敷地の用途に応じた同一需給圏と一致する傾向が
あるが、当該建物及びその敷地一体としての用途、規模、品等等によっては代
替関係にある不動産の存する範囲が異なるために当該敷地の用途に応じた同一
需給圏の範囲と一致しない場合がある。

2.対象不動産に係る市場の特性
地域分析における対象不動産に係る市場の特性の把握に当たっては、同一需給圏
における市場参加者がどのような属性を有しており、どのような観点から不動産の
利用形態を選択し、価格形成要因についての判断を行っているかを的確に把握する
ことが重要である。あわせて同一需給圏における市場の需給動向を的確に把握する
必要がある。
また、把握した市場の特性については、近隣地域における標準的使用の判定に反
映させるとともに鑑定評価の手法の適用、試算価格又は試算賃料の調整等における
各種の判断においても反映すべきである。

第2節個別分析
T 個別分析の意義
不動産の価格は、その不動産の最有効使用を前提として把握される価格を標準とし
て形成されるものであるから、不動産の鑑定評価に当たっては、対象不動産の最有効
使用を判定する必要がある。個別分析とは、対象不動産の個別的要因が対象不動産の
利用形態と価格形成についてどのような影響力を持っているかを分析してその最有効
使用を判定することをいう。

U 個別分析の適用
1.個別的要因の分析上の留意点
個別的要因は、対象不動産の市場価値を個別的に形成しているものであるため、
個別的要因の分析においては、対象不動産に係る典型的な需要者がどのような個別
的要因に着目して行動し、対象不動産と代替、競争等の関係にある不動産と比べた
優劣及び競争力の程度をどのように評価しているかを的確に把握することが重要で
ある。
また、個別的要因の分析結果は、鑑定評価の手法の適用、試算価格又は試算賃料
の調整等における各種の判断においても反映すべきである。

2.最有効使用の判定上の留意点
不動産の最有効使用の判定に当たっては、次の事項に留意すべきである。
(1)良識と通常の使用能力を持つ人が採用するであろうと考えられる使用方法であ
ること。
(2)使用収益が将来相当の期間にわたって持続し得る使用方法であること。
(3)効用を十分に発揮し得る時点が予測し得ない将来でないこと。
(4)個々の不動産の最有効使用は、一般に近隣地域の地域の特性の制約下にあるの
で、個別分析に当たっては、特に近隣地域に存する不動産の標準的使用との相互
関係を明らかにし判定することが必要であるが、対象不動産の位置、規模、環境
等によっては、標準的使用の用途と異なる用途の可能性が考えられるので、こう
した場合には、それぞれの用途に対応した個別的要因の分析を行った上で最有効
使用を判定すること。
(5)価格形成要因は常に変動の過程にあることを踏まえ、特に価格形成に影響を与
える地域要因の変動が客観的に予測される場合には、当該変動に伴い対象不動産
の使用方法が変化する可能性があることを勘案して最有効使用を判定すること。

特に、建物及びその敷地の最有効使用の判定に当たっては、次の事項に留意すべ
きである。
(6)現実の建物の用途等が更地としての最有効使用に一致していない場合には、更
地としての最有効使用を実現するために要する費用等を勘案する必要があるた
め、建物及びその敷地と更地の最有効使用の内容が必ずしも一致するものではな
いこと。
(7)現実の建物の用途等を継続する場合の経済価値と建物の取壊しや用途変更等を
行う場合のそれらに要する費用等を適切に勘案した経済価値を十分比較考量する
こと。

総論
第1章不動産の鑑定評価に関する基本的考察

第2章不動産の種別及び類型

第3章不動産の価格を形成する要因

第4章不動産の価格に関する諸原則

第5章鑑定評価の基本的事項

第6章地域分析及び個別分析

第7章鑑定評価の方式
鑑定評価の方式
価格を求める鑑定評価の手法1
価格を求める鑑定評価の手法2
賃料を求める鑑定評価の手法

第8章鑑定評価の手順

第9章鑑定評価報告書


各論
第1章価格に関する鑑定評価
土地
建物及びその敷地
建物

第2章賃料に関する鑑定評価
宅地
建物及びその敷地


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